〜グローバル時代へ向けた人材育成〜
おじゃまします ―協豊会 朝香会長に聞くー 協豊会広報委員会は7月24日、日本精工竃{社において、
朝香新会長(日本精工梶@取締役 代表執行役社長)にインタビューを行いました。 日本精工さんの本社は、東海道新幹線の品川駅から山手線で一駅の大崎駅に隣接しており、中部地区からのアクセスが非常に便利なところに位置しています。インタビューを行った20階からは、天気が良いと富士山が望め、また東京タワー周辺の夜景も楽しめるそうです。 日本精工さんは、「しなやかに、限りなく」「MOTION & CONTROL」を企業メッセージとされている、国内有数のベアリングメーカーです。自動車部品においてもCVT(無段変速機)やステアリングシステムなどの開発に力を入れられ、また早くから海外に事業展開されています。 朝香会長には「グローバル時代へ向けた人材育成」というテーマを中心にお話を伺いました。
◇新会長就任の抱負と取り組むべき運営・活動課題についてお聞かせください
私ども協豊会は、トヨタさんの経営方針を受け、「安全」と「品質」に対して、より高いレベルを目指し如何に貢献していくか、を本年度の活動の最重点事項と位置付けています。各地区の経営者懇談会やテーマ研究部会では、これらを課題として取り上げ、トヨタさんより「パートナー」と位置付けていただけるような関係を築き上げるためにも、「双方向コミュニケーション」をさらに進め、その責任を果たしていきたいと考えております。 これまで、日本の製造業は「品質第一」で現在の地位を獲得し、グローバルでの優位性を保ってまいりました。これだけグローバル化が進展していく中でも、今が忙しいからと言って品質問題が許される訳ではありません。会員会社としては当然ながら、安全、品質を支えていく活動のウエイトが高くなってくるものと思います。安全、品質に対し会員相互の研鑽が重要であり、グローバル化に向けた差別化できる品質の再構築が、今こそ必要な時期に来ています。 ◇日本精工さんの会社概要についてお教えください 当社は1916年11月8日に創立し、国産第一号のボールベアリングを生産開始してから今年で90年を迎えます。軍需を中心に生産をスタートした当時、ベアリングの用途はまだまだ少なく、煙突が立っているところは工場だと思って出向いたところ、実はそこは銭湯だった、という笑い話もあったそうです。しかし、昭和30年代のモータリゼーションを期に国際化が進み、ブラジルを皮切りに昭和40〜50年代にはアメリカ、イギリスへ、以降1980〜1990年代に海外展開を加速させ、現在では生産、技術、販売の各拠点はいずれも、海外のほうが多くなっております。今は生産量、売上高ともに、まだ若干ですが国内比率が海外を上回っておりますが、ここ1〜2年のうちにその比率は逆転すると予測しています。また、現調化率が高いことも特徴ですが、これは政治的背景として貿易摩擦のたびに海外展開を進め、現地の需要に対し現地で生産することを基本としてきたからです。 当社が生産している軸受は摩擦を減らす部品として、省エネの役割が大きく、エネルギーの効率化に向け、国際的にも益々需要が増す製品であり、一層の技術開発を加速する必要があります。 当社は、「しなやかに、限りなく」「MOTION & CONTROL」 を企業メッセージとして、円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を越えた人と人の結びつきを強めていきたいと思っております。「しなやかに」は、「弾力性、円滑性、粘り強さ、柔軟性、技術レベルの高さ」の5つを表し、同時に企業および社員の姿勢も象徴しています。次に「限りなく」は、「価値を創造し続けること、成長し続けること、貢献し続けること」という企業としての目標、使命に対する姿勢を表しています。 そして「MOTION & CONTROL」とは、潤滑と摩擦のテクノロジーであり、摩擦を科学するベーシックな部分の研究開発を意味します。ベーシックな研究開発が将来の技術の差別化となりますので、トヨタさんのように常に技術的課題を与えていただけることは非常にありがたいと思っています。当社は、潤滑と摩擦のテクノロジー「トライボロジー」を進化させ、エネルギーをより効率化するテクノロジーを追求していますが、まさに終わりがなく、奥が深いテーマであると、日々実感する次第です。 ◇海外展開についてお聞かせください 当社は、ボールベアリングの生産において、早くから国際化、多国籍化を進めてきました。世界の市場は、6500万台の車、家電、建設機材等多くの市場があります。自動車の海外展開においては、カーメーカーさんの展開が拡がるにつれ、当社の現地化の品種も順次拡大してまいりました。ベアリングは設備費のウエイトが高く、海外展開にあたっては如何に投資を抑えるかがポイントとなってきますが、そのステップとして、過去においては国内の古い機械を海外へ送って改良して使用してきましたが、最近は新しい設備、生産技術をもって差別化していかないと競争力が出てこなくなってきております。国内で生産技術のレベルアップを行い、海外で差別化を図っていかないと世界でNo.1にはなれません。 そして、ここで重要になるのが紛れもなく『人材育成』です。教育をやっていなければ、現地の生産力はもとより、QCDのレベルも上がってきません。現地化の為の足元固め、現地・現物を十分理解した教育を徹底的にやっていく必要があります。もう一つの課題としては、現地で良い材料が入手できるか、ということが課題となります。良い材料がある国は製造業が発展しています。現地の材料メーカーをどのように我々なりに育成していくかが必要となります。人材、材料等早く現地化することが、トヨタさんに対しても本当の意味で協力できることになります。 ご承知の通り、トヨタさんの海外生産はここ数年で一気に拡大して参りました。中国の広州工場、またグローバルカムリが立ち上がったことは記憶に新しいところですが、今後も米国テキサス、カナダ、ロシア、タイ第3工場の立上げ、グローバルカローラの量産立上げなど、重要プロジェクトが目の前に迫っております。このようなトヨタさんの猛烈なスピードについて行くことは生易しいことではありませんが、我々会員各社はグローバル展開を進め、足元の重要プロジェクトを着実に実行すると共に、真の現地化を推進して行かなければなりません。 トヨタさんは常に警鐘を鳴らしておられますが、我々は単なる現地化で量の対応だけに邁進するのではなく、基本である「安全・品質」に加え、「人材育成」も重要視し、足元をしっかりと固めて行かなければなりません。いずれも大事なことは質の追求である、と思っております。
◇「モノづくり」は「人づくり」として「NSKモノつくりセンター」を設立されましたが、概要をお聞かせください 2005年、社内に「NSKモノつくりセンター」を設立いたしました。各工場より、優秀な軸受製造の技能を持っている30〜40代の社員を派遣してもらい、技能・技術の奥にある原理・原則まで伝承し、そして磨きのかかった技能を工場へ持ち帰り、他の社員へ教え裾野を広くしていく、という取り組みを行っております。更に海外からも、ポーランドから毎年約15名を日本に招いて教育を行い、今までに100名を越える社員が巣立っていきました。また今年からは、現場のモノつくりを側面から支える技術スタッフ層への教育も開始しました。設備を知り、製造技術のスキルアップを図り、技術的な面で現場を支える人材を育成する計画です。 また、「人づくり」に関して言えば、いわゆる「2007年問題」、つまり団塊世代による大量定年退職の影響と、少子化による将来的な問題が、少なからず当社にもございます。モノつくり企業である当社としても、非常に危機意識を持っております。労働力不足による対策としては、再雇用制度や派遣社員の正社員化も導入しています。今は3Kの職場ではありませんが、やはり油を扱う職場であり、若い人からは敬遠されてしまいます。トヨタさんのようにピカピカの職場づくりをしないと、採用も難しくなってきているのが現状です。技術・技能の伝承の問題だけでなく、これらも企業の存亡に関わる非常に重要な問題と認識しており、早急なる対策を打たねばならないと考えております。 ◇最後にご趣味、ご信条についてお聞かせください 趣味として今まで数多くの事に絶えず興味を持ち、いろんな事をしてまいりましたが、特に最近はゴルフや音楽鑑賞をしておりますと自然に心が和んできます。 謙虚に誠実に努力することで、信頼を勝ち取ることができると思い、「努力」「誠実」をモットーにしています。 本日はお忙しい所、ありがとうございました。
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