易きになじまず難きにつく おじゃまします ―石津 関東地区代表副会長に聞くー
協豊会広報委員会は11月26日、旭硝子竃{社において、石津地区代表副会長(旭硝子 取締役会長)にインタビューを行なった。
旭硝子さんには"自社ビルは持たない"との社風があり、お話を聞いた本社も、JR有楽町駅前の新有楽町ビル内(6&7F)に在る。 業界トップメーカーでグローバル企業の旭硝子さんグループは、『イノベーション&オペレーショナル・エクセレンス(革新と卓越)』・『ダイバーシティー(多様性)』・『エンバイロメント(環境)』・『インティグリティ(誠実)』の価値観を、組織及び個々人のあらゆる判断、行動の基礎とされ、21世紀を見据えた事業展開を進められている。 石津会長には、ざっくばらんに日頃の「思い」を話して頂いた。
◇ 企業経営について日頃の「思い」をお聞かせ下さい。
事業概況などについてお話しても面白くないだろうし、当社のホームページをご覧頂ければ分かることなので省略するが、社内でいつもうるさく言ってきたことがある。それは、我社の創業の精神である『易きになじまず、難きにつく』という極めて野性的な精神が無くなり、今は逆に『易きについて、難きにつかない』人間ばっかりの集団になっているのではないか?"弛んでいる"と言ってきた。だんだん管理が強くなってくると、皆が守りになってくる。志が小さくなってくる。"もうちょっとデカイ夢を持て""志を大きくしろ"兎に角、前に難問があったらぶつかるという気持ちを持て。如何に擦りぬけようかと考える人間ばかりの集団になっているのではないかという思いがある。 戦後の「作れば売れる時代」のささやかな成功体験が、そのままビジネスモデルとしてまかり通り、今の激動する世の中にこのモデルが全然通用しないということを自覚していない。それが我社の危機を発生させているひとつの大きな要因だと断じてきた。 社長になったらそれまで言っていたこと、やってきたことをがらりと変えたので、「難いことを言う」「カッコいいことを言う」と言われ、「それはそうだ社長なんだから」と冗談めかして言い切った(笑い)が、実際のところは右肩上がりの事業環境では求められることもなかった経営に対する時代の要請があったということであり、言わば地図のない航海を進めているような心境だった。 「危機」とのお話ですが、順調に業績が伸びているとお見受けしますが 我社は"成り行き"でここまで来たとの思いがある。構造改革だとか言っているが、徹底したトヨタさん流の経営手法をまだまだ真似ていかないといけないと思う。社長になってから自動車メーカーさんとのお付き合いをし始めたが、凄くためになることが多い。 ここで私の社歴を簡単に紹介しますと・・前半は工場を中心とする資材関係の仕事で、原材料の受払いだとかで工場にどっぷりつかっていた。後半はガラスの売り子であり、自動車以外の建築・ゼネコン、流通、住宅メーカーさんがお客様だった。 自動車産業とのお付き合いが出てきて、徹底的な品質の哲学を学んだ。トヨタさんを始めとする自動車産業に品質についての哲学を教えて頂いたという部分が凄くある。伝統商品である建築用のガラスは、伝統が強いから傲慢になっていた。そこに自動車産業のいぶきを吹き入れ、品質に対するもの考え方が出来上がってきた。今、全社に広げる品質への提言は、自動車関連の部署から発信している。
◇ 貴社のグループビジョン、会社方針についてお聞かせ下さい
以前当社には『オレンジブック』というビジョンブックがあった。それは名前を変えればどこの会社でも当てはまるような極めて普遍的なビジョンブックだった。それは作られて直ぐお蔵入りとなり、全然議論しなかった。 これでは駄目だと言う事で1998年に社長になった時、中期経営計画(3年計画)を示した。しかし2年ぐらいしたら"それじゃだめだ"、ガンガンと"石津の目指す旭硝子の方向性を示してくれないと仕事が出来ない"との意見が出てきた。それで、独断と偏見で事業部・職能部から13名を集め、1年がかりで議論に議論を重ねて出来上がったのが『Look Beyond』である。 2002年の4月に出来上がり、それから半年で60箇所ぐらいを説明に回った。私は英語がまともに出来ないので、海外では横に通訳兼業務秘書を連れて行って繰り返し繰り返し同じ話をした。 21世紀を見据えて、これからどういうお客さんがビビットに活躍するかということを前提にし、それに対し我社のテクノロジーベースでは何があるかという関係で、その間をどういう風に埋めていくかという議論を行った。そこから出てきた我々のめざす主要事業領域が、建築用板ガラスや自動車用ガラスなどの『開口部材』、ディスプレイ用ガラスなどの『表示部材』、そして、更に新しい事業領域として『エレクトロニクス&エネルギー部材』である。 こういう形で1つの方向性が、1年間の成果としてある程度出てきた。これを進めるには、フィロソフィーをきっちりしなければいけないということで、旭硝子グループの競争優位の源泉を『イノベーション&オペレーショナル・エクセレンス(革新と卓越)』と置き、グループを支える柱として『ダイバーシティ(多様性)』『エンバイロメント(環境)』『インティグリティ(誠実)』と定め、この4つの価値観をベースにした考え方で行こうと決めた。全世界に号令を掛けた時も、この価値観は直ぐに受け入れられ、皆が"了解"と言ってくれた。 我々、21世紀は"光"だというイメージでビジョンを作り上げ、「ブライトネス」とかを入れた標語を作ろうと、アメリカのコンサルタントに相談したら『Look Beyond』が良いと言ってきた。受験英語しか分らない我々には合わないのではないかと思ったが、アメリカ人は率先して賛成してくれた。『Look Beyond』には先を見据えたという意味があるそうで、良い言葉に決まったと思っている。 それを現社長の 門松さんが引継ぎ、『JIKKO(実行)−Execution for Excellence』という新しい経営方針の下、「実行」を通じて『Look Beyond』を実現しようと社員に働きかけている。 ◇ ご趣味、ご信条についてお聞かせ下さい。 趣味と聞かれても困るが・・家族で旅行すること。落ち着いた趣味で良いでしょう(笑い)。また、大学時代は硬式庭球部に席をおいていたので、テニスも大好きである。今はプレーしなくなったが、テレビ観戦を楽しんでいる。 信条は"自然体"。カッコつけてもしょうがない。そして"自分の信念は貫く"ということ。 大学時代、テニスの試合で6−0、5−1と勝っていた局面の後、ポイントが取れないで、5−7、0−6で負けたことがある。それは、コートの回りにいた先輩から "石津、後ろに下がってロビングを打て"と指示された。 自分の思いはそうじゃなかったが先輩の言うことを聞いたために負けてという悔しい思い出がある。 自分の思いを貫き通した時の失敗は、ぜんぜん気にならないが、他人に言われて自分の考え方を変えた時の後悔の念はすごく大きい。意地っ張りと言われるが、"ここ"と思うと絶対に自分を曲げないことにしている。 ◇ 協豊会関東地区代表副会長としての思いをお聞かせ下さい。 協豊会は凄く勉強になる。同質はちっとも面白くない。異質と触れ合うことは重要である。異質と触れ合うことで好奇心を駆り立てられ、そこから得るものは非常に大きい。異質の業界との付き合いを通してトヨタさんとお付き合いしていくということは、我々にとって大いに刺激になる。多様性、ダイバーシティに繋がるものである。 協豊会関東地区の皆さんにも協豊会活動の中での多様性に刺激を受けながら、一緒に切磋琢磨・勉強していってもらいたい。そしてトヨタさんと双方向コミュニケーションを図りながら、着実にWin−Winの関係を築き上げて行きたい。 本日はお忙しい中、長時間お付き合い頂き、誠に有り難うございました
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