おじゃまします  ―協豊会 吉川関西地区副会長に聞く  
 協豊会広報委員会は、9月10日(水)日本板硝子㈱本社(東京都港区三田)において、吉川代表執行役社長兼CEOにインタビューを行いました。 吉川社長には会社概要、沿革、企業体質強化へのお取組みや、関西地区副会長として、協豊会活動へのお考えや思いなどのお話を伺いました。

「会社概要、沿革についてお聞かせ下さい」 ◆因縁的なグローバルとの関わり◆ 当社は1918年に設立いたしまして、それから100年近くになりますが、設立した当時はアメリカのリビー・オーエンス・フォード(LOF)社という会社の資本が入っており、日米板ガラスという社名でした。それが、日本板硝子という現在の社名になり、以降いろいろと変遷をしてきておりますが、2006年にイギリスのピルキントンを買収いたしました。 実は、当社の最初の出資者のひとつであるLOFは、その後、ピルキントンに買収されまして、そのピルキントンを今度は当社が買収したということで、何十年にも渡る中での因縁を感じています。 ピルキントンは、現在のフラットなガラスを作るための代表的な技術であるフロート製法を発明した会社でして、これを日本で一番初めに導入したのも当社でした。そして結局は、その会社を買収するということになりました。2006年の買収時は「小が大を呑んだ」などと言われたものですが、大きなものを呑みこんだので、これまでは消化するのに苦労してきましたが、漸く企業としてのまとまりと独自色を出しつつあるという状況です。

◆グローバルカンパニー◆ 日本国内では板ガラスメーカーは3社しか無いのですが、他の2社はケミカルなどの事業部門も持たれているのに対して、私どもはガラス事業のみに特化しております。売上高は、50%が自動車用ガラス、40%が建築用ガラス、特殊ガラスなどの高機能ガラスが10%という構成になっており、将来的にはこの高機能ガラスの分野を伸ばしていきたいと考えています。 事業地域としては、世界の30ヶ国で生産活動をしており、また130ヶ国で販売網を展開しています。ピルキントンを買収する前では8割を超えていた日本での売り上げ比率が、今は1/4程度しかなく、従業員の頭数で言うならば日本人は2割弱しかいません。 当然ながら社内の公用語は英語になっており、社内報は19ヶ国語に翻訳しているという状況です。また、取締役会や経営会議などでは同時通訳をつけています。 当社は、ピルキントンを買収した2年後の2008年に、当時は日本ではまだ珍しかった委員会設置会社に移行しました。今、取締役が8人いまして、日本人が5人、外国人が3人という構成になっています。その中で、執行役の4人は、私ともう1人が日本人、あとの2人はドイツ人とイギリス人です。非執行役の4人は全員が社外取締役で、日本人が3人とドイツ人が1人となっています。執行部門では、更にダイバーシティが進み、例えば生産革の担当役員はイタリア人女性です。 日本の中では、結構徹底したグローバルカンパニーなのではないかと思っています。 「環境変化が激しい中、体質強化のお取組みについてお聞かせ下さい」 ◆海外進出ではない真のグローバル化◆ 日本でやっている仕事をそのままの形で海外に持って行くというのは「海外進出」だと思います。一方、「グローバル化・グローバル経営」とは私の理解では、各地域それぞれに最も適した経営を行い、その総和が最大のパフォーマンスを上げる経営のことだと考えています。 私どもは170年以上の歴史を持ち、グローバル経営に一日の長を持つピルキントンを買収したのです。多くの異なる事業環境や文化で運営してきた会社を、全くのドメスティックであった日本板硝子と一緒に経営していかなければならないのです。そのためには、海外進出ではなく「グローバル化」することが必要だったのです。 replicas relojes ◆リージョン制◆ ピルキントンを統合してから、まずイギリス人が社長になり、その後、藤本(元会長)が数ヶ月繋いでアメリカ人が社長となり、そして私が実質上3人目の社長となりました。 私の前任、前々任の2人は欧米式の経営スタイルです。まず大きな方針を立てて、それをトップダウンで世界中に徹底するというやり方で、それが6年近く続きましたが、私は「リージョン制・地域分権」という方向に舵取りを変えました。 ひとつのマニュアルにそって、世界中が全て同じやり方でオペレーションをするだけではなく、各地域がそれぞれの地域特性に応じてやってきたこれまでのやり方の良いところも残していくようにすることが、私が進めているリージョン制の考え方です。 私どもが買収したピルキントンも、前述のアメリカLOFだけではなく、ドイツ、イタリア、南米等の会社を買収してきました。そして、いち英国の会社が、世界中に展開した拠点を集中管理するための手段として、トップダウン方式と世界共通の重要経営指標(KPI)を設定し、それをモニターして経営をしてきたのです。一方、実際の地域の事情に応じて進めてきたやり方(生産、マーケティング、商品開発などのある部分)については、それほど細かくは関与をしてこなかったことに気がつきました。現在でも、各地域にその風土や歴史にマッチした経営のDNAが残っていると。そこに下手に介入をすべきではないと考え、これまでのセントラルからコントロールする経営のやり方を思い切って変えたのです。 しかし、地域によっては指示を待って動くのが楽だ(指示がなければ動けない)という地域もあるので、全部が全部そうではないないのですが、基本的には地域に任せて、その中でPDCAを回す。これは、Planは本社がやって、君ら(地域)はDoをやるだけで、最後に本社からCheckされるというやり方に比べれば、重要な部分を自分たちに任せてもらえると言う面で、地域にとってはよほどモチベーションが上がるのではないか、と思います。 グローバルに展開している大きな組織で、全く自由に経営をさせて本当に大丈夫か、という声はありました。私は、本社がやることは、中長期の経営戦略の立案、幹部人材の育成、投資リソースの配分、基礎開発などを、高い専門性と強いリーダーシップでマネージしていくことだと思います。そして、地域の個別案件には出来るだけ口出しをせずに、緩い縛りしかしない。例えば、費用の予算は指示するが、その使い方についてはどうこう言わない、ただし、その結果は徹底的に追求する、ということで良いと考えています。 ◆地域毎でリーダーシップを高める◆ そして、リージョン制では地域毎に良いリーダーを持つことが重要です。後継者育成のシステムとしては、従来は優秀な人材を育てるというイメージでしたが、今はリーダーシップを高めようということで、各国、各リージョン、グローバルでそれぞれの階層で人材育成チームを作って取組んでいます。そのリーダーが中心になってリージョン制を強力に推進してくれるのです。 「安全、品質などのお取組みについてお聞かせ下さい」 ◆名実ともに安全第一◆ 安全については、私の前の2人の社長は口先だけではなく、相当に力を入れていました。特に、2人目のアメリカ人社長がデュポンの筆頭副社長だった人ですから、相当いろいろなことに取組んで来ました。その成果として、例えば怪我などの労働災害についての社内の指標で言えば、2006年に比べて現在は1/4くらいにまで減っています。 安全は全ての基本であり、これからも相当の力を入れて行きます。まだまだ課題はあると思いますし、今以上に安全への取り組み強化は必要ですが、内心では世間から見ていただいてもそこそこのレベルにあるのではないかと自負しています。 ◆環境は生産と開発の二面での取組み◆ 環境についてはまだまだこれからです。当社(業界)が非常に特徴的なのは、ガラスを溶かす工程で多くのエネルギーを使う訳ですが、生産されたものは殆どが省エネ製品なのです(建築用の複層ガラスや自動車の軽量化ガラスなど)。ガラス製品の製造時に消費したエネルギーは製品使用時の省エネルギー効果により短期間で取り戻されます。しかし、もっと工夫をしてガラス溶解の際のエネルギーの節減に対応して行かなければなりません。もう一方で、省エネに寄与する製品を如何に開発していくか、この両方が業界全体にとっての大きな課題となっています。 ◆品質は海外拠点での向上が課題◆ 国内は何とかレベルを保っていますが、海外ではどちらかと言うと、機械や工程で品質を作りこむという考え方が強いということと、お客様の要求レベルが日本ほど高くない地域が多いということもありまして、まだまだ課題があると思っています。最近になって、海外拠点でも、漸く「ヒト」が品質に関わる重要なファクターであることに気づき始めたようです。 海外での品質活動は、個人主義の所ですから、各職場の職長や課長レベルが主導権を握り進めていくやり方となっており、QCサークルも無く、日本とは随分と違います。国によっては、宗教や身分の差などからサークルを組むということが出来ませんので、QCサークル以外の手法で取組んで行かなければなりません。 「関西地区副会長さんとして、協豊会活動についてのお考え、メッセージをお願いします」 ◆世界の中でも珍しい組織◆ 協豊会については、特に関西地区に限定するのではなく、今のところは会全体の印象しかありません。 私どもは世界中に工場がありますので、海外の人たちに協豊会のようなものがあるのかを聞いてみますと、各国ともあるようなのですが、ただそれは単なるサプライヤーの会であり、自動車メーカーさんの上から目線の部分が強いとか、本日の様なインタビューとか経営者懇談会とかは一切無いようです。方針を話して、皆さん、ちゃんと付いて来なさい、というような感じです。 協豊会のように、安全や品質の問題、人材育成、経営についてとか、トヨタさんがどの様なことを考えているのかも分かり、ずっとお付き合いを一緒にして行けば何年か経ったら我々自身が高められるといった組織は非常に珍しいと思います。これから先、トヨタさんが海外の自動車メーカーさんと勝負をして行くところで、我々もユーザーの一部でもある訳ですし、私どもの考え方も聞いて頂けますし、こういった組織というのはとても有効なのではないかと思っています。 ◆サプライヤーが結束して良いものを作る◆ 私自身は板ガラスというよりも元々は特殊ガラスで、ガラス繊維やプリンターのレンズとかが本職だったのですね。日本が強いのは自動車もありますが、実は複写機も圧倒的に日本が強いのです。部品点数は違いますが、自動車と一緒で、部品は殆ど日本のサプライヤーが支えています。協豊会ほど密接な関係では無いにしても、サプライヤー群があって、結束して良い物を作ろうとしている。これは自動車と複写機とで共通して感じる部分ですね。 何万点もの部品の複合で、現場で怪我や事故が起こって1個でも部品が供給できなくなったら困る、という中で完成品を仕上げて行くという面からも、こういった会は大きな意味があるのではないかと思います。 「ご趣味、座右の銘、健康法などお聞かせ下さい」 ◆ご趣味◆ 何が一番好きかというと魚釣りです。それも船で釣る、海釣りです。ただ、社長になってからは周りから「危ないから止めろ」とか、「殺生するのは止めろ」とか言われています。特に、東日本大震災では海で大勢の方が亡くなったこともありまして、今はなかなか行けていない状況で、せいぜい年に3回ほど行ければいいかなと。 あとはゴルフですが、酷い腰痛持ちでして、それも椎間板ヘルニアが2つもあり、過去2回もえらい目に遭っているものですから、最近では年に5~6回ほどにしています。 ◆座右の銘◆ 特に座右の銘というのは無いのですが、好きな言葉があります。「思った通りには成らないが、やった通りには成る」という言葉です。 特に今、グローバルになって言葉の問題もありコミュニケーションがとりにくいのですが、それ以前に、物の考え方や判断の仕方、背景となる文化が全然違うところで、私が伝えることが実行に移されるということはそんなに簡単ではありません。行動に移してはじめて結果が出る訳であり、そのプロセスは本当に時間と労力がかかるものだな、と思っています。世界各地を回って直接皆に訴えてはおりますが、それで直ぐに行動が変わると期待はしていません。8年前のピルキントン買収以前は、日本人だけを相手に仕事をしていた時の、同じ職場にいれば、以心伝心、だとか、一を聞いて十を知る、だとかは全くの手抜きだったな、と今になって感じるのです。 自分の考えていることを本当に、その通り組織の末端に伝えて行動に移させられるかどうかということでいくと、グローバルカンパニーの経営者というのは本当に大変だと思います。特に今やろうとしていることは殆ど会社のカルチャーを変えなければいけないような話なので、たまに良いことを演説するだけでは何もならない(効果が無い)と言うことですね。私が頭の中で考えているだけではだめで、会社の皆にやってもらわないと、なにも始まらないということです。 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
吉川社長(中央左)を囲んで・・・  
  石塚広報委員長 (太平洋工業㈱ 取締役専務執行役員):中央右
  黒崎広報副委員長 (パイオニア㈱ 上席常務執行役員):左
  小谷事務局長 :右
協豊会タイム
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